【読書感想】ザ・粉飾 暗闘オリンパス事件 (講談社+α文庫)

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「ザ・粉飾 暗闘オリンパス事件 (講談社+α文庫)」を読了した。著者の主眼は、オリンパスを利用し暗躍した金融プロ集団の実像を炙り出すことのようだったが、メーカー勤務(本記事作成当時)の身としてはやはりオリンパス内部の動きが気になった。

実は新卒の就活でオリンパスを受けたので、ちょっとした思い入れがある。ちょうど事件から数年後のタイミングで、まだまだ記憶に新しかった時代だ。しかし、当時選考時期が少し早かったオリンパスからもし内定が出ていたら、今の会社は選考途中で辞退してオリンパスに決めたかもしれない。(実際は一次面接でサクッと落ちたのでこの仮定はナンセンスではあるが…)なぜなら、オリンパス事件に関してはリアルタイムの報道も多少見ていたのもあって、経営陣が悪事に手を染めただけで本業ではちゃんと稼いでいるから会社自体は問題ない、という印象だったからだ。さらに、選考の前に参加した技術系社員との座談会イベントでは、冒頭に司会の人事部社員からオリンパス事件についての謝罪があり、社員へのQ&Aのコーナーで勇気ある他の学生が事件についてコメントを求めた時には、詳細は覚えていないが誠意の感じられる回答があったと思う。当時はそれで満足し、好印象さえ覚えていた。

選考で落とされた負け惜しみのようで気が引けるけれど、この本を読んだ今、当時の自分に声をかけられるなら受けるのをやめるように言うだろう。というのも、事件における不正は旧経営陣の菊川元社長を筆頭に有罪となった数名だけで実行された訳では無かった。その下に多くの社員が(単に指示に従っただけかもしれないが)損失隠しに加担し、また薄々感づきながらも声をあげなかった傍観者もたくさんいたのである。(ただし、本書の著者に情報提供をしていた社員を筆頭に、行動した社員も多くいたこともまた事実である。)それらの社員は事件後もオリンパス社内で働いているのだ。このことを知ってもなお、入社を希望しただろうか。

さて注目したいのは、きっと旧経営陣の面々は根底には「会社のために」という思いがあっただろうということだ。損失が明るみに出れば会社の経営が傾くことになる。もしかしたら社員の暮らしまで心配したかもしれない。結果的に一連の行為は会社を破滅に追い込みかねない大悪だったのだが、どこまで悪の意識があっただろうか?そして「会社のために」と考えている上層部から指示を受けた社員たちはどう感じただろうか?

「会社のために」不正を働く、という感覚。これは昨今多くの会社で実施されているであろうコンプライアンス研修の類では「結果的に会社のためにならない」と必ず否定されるもので、僕もその通りだと思っている。とは言え、上意下達の厳しい雰囲気において上司から「会社のためだから」と指示されたら、果たして反論できるだろうか?もし、自分が一家の大黒柱で今の収入を維持しなければ家のローンや子の学費を払うことができなくなる状態だったら、声をあげられるだろうか?前述の批判的な姿勢と矛盾するかもしれないが、正直なところ僕も必ず出来るとは言い切れない。

一会社員にとっては、会社に依存しないことが大事だと常々思う。会社が傾いたら自分(家族)の人生も傾くようだと、何でも従うしかない。難しいことではあるけれど、そうならないようにするには最悪クビになっても大丈夫と思えるようにしておくことが一つの手段である。そうやって今よりも多くの人が「会社のために」行われている不正に異を唱えられるようになれば、まず不正そのものが減っていくだろうし、本書が指摘しているオリンパス事件の「不透明かつ曖昧な」幕引きを許さない社会になっていくのではないだろうか。

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