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【読書感想】藤沢数希「コスパで考える学歴攻略法」(新潮新書)

その他

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以前著者のツイートを目にしたとき、自分とは価値観が異なると感じたことがあったのだけど、タイトルにある通りコスパを軸に書かれているおかげで、ある意味フラットな内容になっていると感じた。そのため本書は多くの人におすすめしたい。

本書はあくまで著者が考える費用対効果を語るものであり、各進路の是非を問うものではない。コスパに劣ると言われる選択をする自由はあるし、そもそも家庭の経済状況によってコスパの捉え方も異なるはず。そこを踏まえた話なので誰が読んでも一定以上得るものがあると思う。

中学受験(以下、中受)について一章を割いているが、個人的にはこの章が秀逸と思う。中受のメリットはもちろんのこと、見落とされがちなデメリットも語られている。中受経験者としてどれも納得する内容だった。中受検討中の方には是非読んでほしい。何が書かれているかは読んでもらうとして、僕は著者の考える中受の最大のメリットに大いに同意したい。これだけは引用しておく。

筆者は中学受験の最大の果実は志望校に合格することではなく、毎週順位が出るテストを受けながら塾で授業を受け家庭で猛勉強し続けるそのプロセスにこそあると思う。

藤沢数希. コスパで考える学歴攻略法(新潮新書) (Japanese Edition) (Kindle-Positionen1360-1361). Kindle-Version. 

これは本当にその通りで、たまに見かける「〇〇中に受からなければ意味がない」などの言説はかなり中受の狂気に引っ張られたものだろう。過熱する中学受験はコスパ云々とは外れたところにある話だ。

少し本筋と逸れるが、本書を読んで、そうそう、中受は贅沢なんだよね、と思った。中受をすることによる追加費用を本書では○万円と概算していたが、それを高いと見るか安いと見るか。僕は中受経験者なので、親がその費用を負担したわけではあるが、やはり高いと思う。昨今中受して当たり前という雰囲気が一部界隈で感じられるが、中受すべき論に傾倒する前に、その追加費用を無理なく出費できるかどうか、その出費に見合ったリターンが得られるかどうかはシビアに考えるべきだろう。ネット上では都内では年収1000万あっても生活に余裕はないと言う一方で、中受予定という人を見かける。しかし、それは中受なんかしたらそりゃ余裕はないよねという話でしかない。本書では中受をしない選択肢も提示されているので、是非参考にしたいところだ。

本書において重要な指摘だと思ったのは、大学以降は受験勉強的価値観をアンラーンする必要あり、という点だ。僕の中高一貫校時代の同級生で、大学受験では難関大の入試を突破したものの、大学入学後にメンタルに不調をきたし、その後就職できないままいつしか音信不通になった例を複数人知っているが、そのアンラーンが上手くいかなかったことが彼らのメンタル不調の原因の一つだと僕は思っている。受験勉強的価値観を中受の時から強固に植え付けられていき、それが大学受験まで続いた場合、人によってはそのアンラーンは容易ではない。この点に関しては親が負うものが一定以上あるように思う。僕は、人生とはまずは心身ともに健やかに、そして細やかなものでも時々幸せを感じながら生きていければそれでいいと思っているので、大学がどうとか就職がどうとかそれ自体が問題とは思っていない。しかし、親がかけたであろう期待の結果として、「健やかに」という部分が損なわれてしまったのであればそれはとても残酷なことだと思ってしまう。本書は受験勉強的価値観に現実的に適応した戦略を示しつつも、その価値観とは適度に距離を置いた記述になっているので、過熱する受験の「沼」にどっぷり浸かって抜けられなくなる前に是非読んでほしい。

全般的に参考になる内容だったが、最後にあえて注意点を挙げるとしたら、現状の学歴獲得競争を旧来のペーパーテストによる学力をベースとした競争と捉え、それを前提として論じられている点だ。本書でターゲットとしている難関国立大を目指す層においてはまだしばらくそれで間違ってはいないと思うが、今後10年20年でどうなるかは分からない。難関私大入試では一般入試の割合はもはや半分ほどになってきたし、国立大でも総合型選抜を導入する大学も増えてきた。ペーパーテストによる学力をベースにした競争とは、究極的には国立大二次試験で1点でも多く点をとるという競争と言っても良いわけだが、それに最適化することは今後もずっと正解ルートである保証はない。僕には産まれたばかりの娘がいるが、今後我が子への教育投資を考えるときには本書の内容は多少留保が必要だろう。ただ、それを前提とするならば、本書を我が子の受験を考える多くの親御さんにオススメしたいと思う。

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